Delta in the Darkness

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カミガミノユメ完全版

「第二回ひぐらしのく頃に小説大賞」落選作(´・ω・`)

以下の点を投稿版より改稿しました。


・序盤の圭一の雪道牛歩(字数の都合で投稿版では削除)
・圭一vsラスボス(流石にやりすぎたと思い、削除。投稿版ではラスボス降臨と同時にゲームオーバー→エンディングへ)
・ブログ機能を駆使してフォントサイズ、改行など演出強化。
・富竹の武装一点追加www

※「祭囃し編」の後日談です。原作読了推奨。  




     【カミガミノメ・完全版】


 昭和59年元旦。俺は何故、こんなめでたい日に、雪原を牛歩前進しているのだろう。
 いや、雪原なんかじゃない。道があったはずなのだ。あったのだと信じたい。部活メンバーから雛見沢が豪雪地帯だとは聞いていたが、一夜のうちにここまで景色が激変するものなのか……。
 膝の高さまで積もった雪に悪戦苦闘しながら、俺は前進を続ける。これが大晦日の昨日でなくて良かったぜ。こんな雪の中で大掃除なんて、想像したくもない。
 除雪車はどうした? それとも、流石に元旦には出動無理なのか……。ああ、そうさ。今日は元旦で外は大雪。だったらここはコタツに入って面白くもない正月番組を見ながら、蜜柑を食らってのんびり過ごすのが普通じゃないのか、いやそれ以外有り得ん。
 それなのに俺は、こうして一面銀世界の雛見沢を、元旦から歩いているわけで……。
 
 昨日、大掃除でくたくたになっているところ、魅音から初詣の誘いの電話が来た。部活メンバーみんなで、古手神社にお参りするらしい。
 それ自体は大歓迎でまったく異論はないのだが、今日起きたらこの雪だ。流石に無理だろうと思って電話で確認したのだが、取り敢えず園崎家まで来いという。来ないと後悔するぞ……と。
 
 鬼だ……。

 普段の倍以上の時間をかけて、ようやく園崎家に辿り着いた。
 ズボンが雪でグシャグシャだ。お袋の言うとおり、無様でも全身カッパを着ていくんだった。魅音の家に、着替えあるかな……。
 立派な門松が飾られている門の前に立ち、呼び鈴を押す。
 屋敷が広くて聞こえないのか、反応がない。耳を澄ませば、なにやら屋敷から賑やかな声が聞こえてくる。野太い男の笑い声が聞こえて、ふと思い至った。そうだ、今日は元旦。園崎家の重鎮が勢ぞろいしてるんじゃないのか?
 
 そんなことを考えていると、唐突に扉が開いた。
「あけまして、おめでとうございます」
 開いた扉の向こうには、葛西さんが居た。新年の挨拶をしながら、軽く頭を下げている。
「お、おめでとうございます」
 俺もあわてて頭を下げる。
 葛西さんがいるって事は、詩音はもう来ているのか。いや、昨日から泊まってるのか?
「ご案内します」
 葛西さんはそう言うと、前を歩き出した。
 門の前や玄関に続く道は流石に雪かきがしてある。俺は真っ当な地面を歩ける喜びを踏みしめた。こんな雪だと、レナや梨花ちゃんたちが、無事に辿り着けるか心配だ。
「他の方々は皆、本宅にてお泊りになられましたので、その心配はございません」
 どうやらまた、思ったことが口から出ていたらしい……て、泊まった!? 俺だけ除け者かよ!? 酷ぇぜ魅音!!
 
 玄関先まで来ると、そこで待つように葛西さんに言われた。
 流石に、この様で人様のお宅には上がれない。
「おやまぁ、水にも滴るいい男だねぇ。下半身だけが濡れてるってのが卑猥だねぇ☆」
 そこへ、バスタオル片手に魅音のお袋さんがやってきた。年が明けても、相変わらずの人だ。
 振袖がとても似合っていた。ホント、黙ってれば凄い美人なのだが……。
「あ、あけまし……」
「んな堅っ苦しい挨拶は後だよ後。ほら、さっさと下脱いで上がりな」
「脱い!? ちょっ!?」
 魅音のお袋さんはそう言うと、俺の抵抗もお構い無しにズボンに手をかける。
 視界の片隅に、気の毒そうな顔をした葛西さんが映った。サングラスで正確な表情は読み取れないけど、同情に満ちた顔をしていると確信が持てた。



 これは袴というやつか。初めて袖を通す。
 全然詳しくはないが、手触りだけで、上等な生地が使われていることが、何となく分かる。元旦の園崎家に足を踏み入れるからには、これくらいの格好はしろということなのだろうか。
 かなり上機嫌な茜さんに(おばさんというと殺気立つ)に着付けを手伝われた。後でお魎さんにも見せてやって欲しいと言われた。
 着替えを終えた俺は、葛西さんの案内で客間と思われる和室に通された。ここで待つように、魅音から申し付けられたとのこと。
 しかし、改めて思うが広い屋敷だ。園崎家の重鎮で既に始まっていると思われる宴会のドンちゃん騒ぎ(まだ昼前だぞ)も、遥か遠くのように聞こえる。
 
 その時、スーっと、この和室を仕切る襖が開いた。
「新年、明けまして……」
「「「おめでとうございまーすっ!!」」」
「ぅおっ!?」
 そこには、畳に指を付いて、淑やかに一礼をする女性陣の姿があった。
 
 しかも全員振袖っっっっっ!!!!
 
 レナに魅音、詩音に沙都子、梨花ちゃんや羽入まで……。なんだこの豪華絢爛っぷりは!!
「あれ~、圭ちゃん反応薄ぅ~い。せっかく驚かせようと思って手の込んだことしたのにぃ~」
「驚きと感動のあまりで、声が出ないんじゃないかな、かな?」
……悔しいが、レナの言うとおりだ。まさか女性陣一同、振袖で迎えてもらえるとは。
……なるほど……魅音の言うとおりだ。これは確かに、来なかったら別の意味で後悔していたところだろう。
 「それにしても……はぅ~。圭一君の袴姿かぁいいよ~。お、おもちかえりぃぃ~☆」
 隊長、何かが突進してくるであります……。

「ぅお、美味そうッ!」
 客間に集まった俺達の眼下に広がる、彩り鮮やかなおせち料理。昼食にはまだ早い時間帯だが、これらを目の前にしたのなら、空腹感が沸き起こってくるのは自然な事といえよう。
「なんだよ、これを皆して昨日作ってたわけか?」
「お手伝いさん達が園崎家新年会用のおせちを作っている横で、ちょいとお邪魔して皆で作ったんだよ」
 魅音の話では、どうやら女性陣は忙しい大晦日に集まって、料理大会を開いていたらしい。なるほど、それなら俺が呼ばれなかった訳も納得できる。
 魅音と詩音が、次々と運び込まれた重箱の蓋を開けていく。五段重が8つ。コレは、この人数でも結構な量なのではないか?
「何をおっしゃっていますの圭一さん。おせちを一回で食べきってどうなさるのですか」
「おせち料理にはね、お正月に女性を台所仕事から解放させてあげる意味もあるんだよ、だよ」
「そのため、おせちには日持ちする料理が多いのですわ」
 どうもまた、思っていたことが口に出たらしい。沙都子とレナに、的確に指摘される。
「ボクと羽入は、除夜の鐘を突き終わってから参戦したのですよ」
「あぅあぅあぅ、疲労困憊でクタクタだったけど、頑張ったのですよ☆」
 いかん、年末大掃除に疲れて即座に寝たなど言えん。「圭一のような煩悩の塊にこそ必要なのですよ」とか好き勝手言われそうだ。
「まぁ、振袖もおせちも、誰かさんが単独でやる度胸がなくて、巻き添え食らった感があるかもですが」
 と、詩音。
「わああああ」
 何故か慌てる魅音。
 年が明けても、園崎姉妹は相変わらずのようだ。
「しかし単独で出来ないってなんだ? こーゆーのは皆でやったほうが楽しいに決まってるじゃねぇか」
「あはは、圭一君も相変わらずだね」
 何かレナに呆れられたのだが……。
 謹賀新年雛見沢。
 俺達はこうして、皆で新年を祝えることに喜びを感じながら、皆の着物に負けず劣らず色鮮やかなおせちに舌鼓を打った。



「はーい、傾注傾注」
 おせちを三分の一ほど消化した辺りで、魅音が立ち上がって手を叩いた。
「えーこれより、雛見沢分校の部活はじめを開催したいと思います!」
 元旦早々から部活か。なるほど、一年の計は元旦にあり。これは今年一年を占う意味でも、負けられない!
「へっ、新年早々部活とは上等だぜ! 言っておくが今の俺はサタンも逃げ出すほど気力充実だ! 振袖で悪代官ゴッコを命じられても、泣くんじゃねぇぞッ!」
「良いではないか~良いではないか~。はぅ~。レナ負けないよぉ~」
 いかん、レナの気力も充実した。
「で、お題はなんだ? カルタ、独楽回し、羽子板、麻雀、なんでも来いだ!」
「ふっふっふ、それはねぇ……コレだッ!」
 魅音はそう言うと、どこからともなく古めかしいボードゲームのようなものを取り出し、畳の上に広げた。
「ん? なんだこりゃ。スゴロクか?」
 一見するとそれはスゴロクに見えなくもないのだが、それ以外にもいくつかのカードがあったり、専用の用紙があったりなど、そう単純なゲームではなさそうだった。駒の造りもかなり繊細で古めかしく、ちょっとした文化財なのではと思わせるほどだ。
「蔵の中の大掃除してたら見つけてねぇ……。くっくっくっ、聞いて驚くなかれ、これはね、一種のT(テーブルトーク)・RPGなのさ!」
「なんです、T・RPGって?」
 一人で盛り上がっている魅音の横で、詩音が素朴な疑問を投げかける。
「まぁ、知らなくても無理はないか。ようはね、自分達が戦士や魔法使いになりきって、魔物や魔王と戦っていくゲームなのさッ!」
 魅音が三回転半捻りを加えて、熱く語った。
「70年代半ばから、海外では結構人気の出てきたジャンルのゲームでね。特に『Dungeons and Dragons』は、一度やってみたいとおじさん、常々思っていたのだよ。それが、まさか似たようなのが園崎家の蔵から出てくるとは……! 見てこの古めかしい様を!!  T・RPGの起源は70年代前半のアメリカであるって言われているけど、これは明らかに一世紀以上も昔のもの。つまりは……!!」
 あー。そういえばこいつ、洋物のゲームに目がなかった。
「……あぅ?」
 その玩具を見て、羽入が変な声を上げた。
「あぅあぅあぅ、これはもしかして……」
 
 バンッ!

 そんな音を聞いたのを覚えている。
 魅音の持ってきたスゴロクもどきが、激しい音と閃光を放ったのだ。視界を覆った、溢れんばかりの光。そんな記憶を最後に、俺は意識を失った。



「……一君……圭一君」
 レナの、俺の名を呼ぶ声がして、目を覚ました。
「一体何が……」
 起こったんだ、と訊こうとして、俺は言葉を失った。
 皆も黙りこくったまま、ただ呆然と周囲を見渡している。順応性が高いというか、常に動じないというか、レナだけは比較的落ち着いて見えた。
 もうそこは、一目で園崎家ではないと分かる場所だった。いや、そもそも……現実の世界か?
「は、ははは。そうだ、夢だ。これは夢なんだ」
 無意識に乾いた笑いが、口から漏れる。
「そ……そうだよね。ゆ……夢に決まってるよね。いやぁ、ずいぶん凝った夢だなぁ」
 同じく、魅音も乾いた笑いを漏らした。
 そこは、広い空洞だった。レンガで建てられたと思われる、円形状の広いフロア。俺たちを中心にぐるりと囲む壁には、中世の城などで見られる松明が掲げられ、この広い空間を照らす。広さは、直径50mはあるだろうか。
 もうそれだけでも既に異常なのだが、さらに異常な事に、俺たちの格好が……いつもと違った。
 俺はなんか……白い鎧のようなものを着込んでいる。腰には剣が帯剣されており、その様はまさに中世の騎士といった出で立ちだ。
「は……はう、見ないでぇ~」
 レナはやたらと露出の高い格好をしていた。肩当てなど、俺とは対照的な黒い鎧を着込んではいるのだが……下に着ているのはレオタードか? 何か某ファミレスの衣装に似てないか? 防御力があるんだかないんだか。あと、俺の剣とは違い、レナは槍を持っていた。
「……はッ! 梨花? 梨花がいませんことよ!?」
 沙都子は比較的軽装だ。鎧のような重々しいものは着ていない。動きやすそうな服装に、皮製と思われる胸当てや、脛当てを装備していた。腰に掛かっているのは、弩(ボウガン)だろうか。
「梨花ちゃまだけじゃなくて……」
「うん、羽入もいないね」
 園崎姉妹の格好は同じだった。こちらも鉄製の鎧は着ていないが、沙都子同様、皮製の肩当などを着込んでいる。ただ、手甲だけは鉄製だった。あれで殴られたら痛そうだ。
 取り敢えず、いくぶん落ち着きを取り戻した俺達は、状況の整理をはじめた。
 まず最大の懸案事項は、古手家の二人がいない事だ。
『あぅあぅあぅ、いるのですよ』
 その時、特徴的な声が頭に響いた。それは俺だけじゃなく、皆も聴こえたらしい。声の出所を探して、周囲を見渡している。
 しかし俺もぐるりと周りを見渡したのだが、目に映ってくるのは無機質な壁に掲げられた松明と、いつもと違う格好をした仲間の姿だけだった。
『直接頭に話しかけていますので、姿を探してもらっても無駄なのです。どうも僕が司会進行役に選ばれてしまったみたいなのですよ』
 司会進行役?
「羽入、コレが何なのか分かっている風だったよな。これってどういうことだ?」
 確か羽入は、魅音が持ってきたスゴロクが閃光を放つ直前、これについて何か言おうとしていた筈だ。
『あぅ……これは古手家が大昔に作り出した遊戯具で、名を[カミガミノユメ]といいますです』
 神々の夢……。また大仰な名前だ。
「なぁ、以前[フワラズの勾玉]ってアイテムで珍騒動を起こしたけど……」
『あぅ、その類のものと思ってもらって間違いないのです』
 それを聞いて、魅音、沙都子、そしてレナが顔をしかめた。その騒動に巻き込まれなかった詩音だけが、きょとんとした顔をしている。
「なんです、その[フワラズの勾玉]って?」
 詩音が当然の疑問を投げかけてきた。
「あー。古手家に伝わる至宝ってやつでねぇ……。それでいろいろと偉い目にあったんだよ……。特にレナが……」
「はぅ……」
 詩音の疑問に、魅音が極めて簡潔に答える。
「あれも十分ブッ飛んだアイテムだったが、今度のは規模が違うんじゃねぇか?」
 もうなんか、異世界に転生したとか、どっかの固有結界に飲み込まれたとか、そんなレベルだ。
『意識だけが、[カミガミノユメ]の中に飛んだと思ってくださいなのです。おそらく皆の肉体は、あの客間で意識を失っているはずなのですよ』
 俺はただ単に、非常に奇抜な初夢を見ているんじゃないのか? 富士も茄子も鷹も、まったく出てきそうにない夢を。
『おそらくそこは、魅音の知識をベースに構築された世界だと思われるのです。たとえば今の沙都子の職業は……えっと遊撃士(れんじゃー)というみたいなのですが、これは昔なら野伏(のぶし)と呼ばれていたのです。近接戦には弱く、中間距離でも武器は弩のみと、攻撃力こそ低いのですが、罠を駆使した非常に奇抜な動きが出来る職なのですよ』
「あら、それは面白そうですわね。非常に私向きでございましてよぉ~」
 早くも順応しつつある沙都子。
「くっ……くっくっくっ」
 そして魅音が、不適な笑い声を漏らす。
「これは……これはもう、リアルRPGッ! なら、楽しむしかないじゃない!」
 目を爛々と輝かせて魅音が言った。
「こんな経験滅多にできないよ! てか、最初で最後かもしれないよ! なら楽しまなくちゃッ!」
 魅音がすっかり出来上がっている。
 確かに、その意見には異論はない。前回のように誰かに迷惑をかけるわけでもなさそうだし(今のところは)、これはこれで貴重な体験といえるだろう。
 そう考えると、何か胸の奥からフツフツと熱き血潮が沸いてくる。本来、剣と魔法は男の浪漫。確かにこれで熱くなれなきゃ、男としては嘘ってもんだぜ。
「で、梨花は、梨花はどこでございますの?」
 そうだ、梨花ちゃんだ。さっきから姿が見えない。
「羽入は司会進行役って言ってたけど、梨花ちゃんもそっちなのか?」
 羽入はどうやら司会進行(魅音の補足だとGМ・ゲームマスターというらしい)で姿が見えない。なら、梨花ちゃんもそっちなのだろうか?
『あぅ……その……梨花なのですが……』
 ん? 言葉の歯切れが悪くなる。
『最上階にいるのですよ?』
「「「最上階?」」」
 皆が同時に訊き返した。
 どうもこの建造物は全部で五層の塔になっており、その最上階に梨花ちゃんがいるとのことだ。
「なるほど、囚われの梨花ちゃまを助けるために、最上階を目指すというわけですね?」
 ファンタジー物の王道だな、分かりやすい。梨花ちゃんを助け出せば、このゲームは晴れてクリアといったところか。ますますそれらしくなってきたじゃねぇかッ!
『それが……その……悪い魔女なのです』
「「「………………………はい?」」」



「なんで私だけ、こんな扱いなのよ!?」
『あぅ、あぅあぅあぅあぅあぅあぅ』
 魔女(ウィッチ)。それがどうやら今の私の職業らしい。圭一達が勇者一行様で、私がその敵役なのだという。
「それに私一人でどうしろっていうの!?」
『親玉……えっと[らすぼす]は、眷属を召喚する能力が与えられますです。二階、三階、四階、そしてここ五階に、好きな駒……えっと[ゆにっと]を配置できますのです』
 あ……頭痛くなってきた。魅音あたりなら、今頃大喜びしているだろうか?
「第一、何でこんなモノが園崎家の蔵で眠っているのよッ!?」
『あぅあぅ、多分太古の昔、また古手の巫女の力が強かった頃、その巫 女の手によって創られたのです。で、その後古手家の誰かが園崎家にまで持ってきて、皆で遊んだのではないかと思うのですよ』
「で、そのまま園崎家に置いてきた……と」
『あぅあぅあぅあぅ……』
 なんていい加減なご先祖様か。
「それに、魔女って何よ魔女ッて!?」
『あぅ……ぴったりのきゃすてぃんぐなのですよ……』
「今夜は懲罰用キムチに決定」
『あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ』
 あーうるさい。
「それで、皆はやる気まんまんなわけね?」
『はい。特に魅音は。圭一も密かに熱くなっているポイのですよ』
 さすが我が愛しの部活メンバー、なんという順応力の高さか。こんな滅多にない経験、楽しまなくては損といったところか。
 私も皆と一緒に攻撃側なら楽しめるだろうが、一人で防御側など面白くない。何せ百年超、受け手に回って負け続けた実績があるのだ。
 せめてトラップマスター沙都子が居てくれれば、守りとしての戦術が成り立つ。沙都子が防衛側に回った場合、その能力はまさしく神業となるだろう。
 それに一緒だったら、きっと楽しい。
 どうして私一人で、こんな悪の女幹部みたいなことやらなくてはならないのか。
 どうせなら魅音と代わってほしい。魅音ならその智謀を駆使して、たとえ一人でも部活メンバーと対等に渡り合ってくれるはずだ。
 眷属を好きに召喚できるといったって………………………………ん?
『梨花?』
「………………ふ、ふふ。いいわ。やってやろうじゃない」
『あ……あぅあぅあぅ。なんか、とても邪悪な笑みを浮かべているのです』



「まず、皆の職業と特性を把握しておこう」
 魅音はそういうと皆を集めた。
「沙都子は遊撃士(レンジャー)。この説明はさっきあったからいいとして、えーと、圭ちゃんは騎士(ナイト)かな?」
 確かに、俺の格好は騎士以外に有り得ない姿だ。
『なのですよ。ただ、ここの地形効果は[屋内]に設定されていますので、騎乗ができないのです。攻撃力一割五分……えーと、じゅうごぱーせんとダウンなのですよ』
「騎乗できない? ずいぶんと設定が凝ってるな」
 T・RPGなるものはやったことはないが、これは確かに面白そうだ。
『同じく、竜騎士(ドラゴンナイト)のレナも、屋内ですので[飛竜]の召喚ができないのです』
「へぇ、そんなの呼べるんだ。これ竜騎士なんだね……はぅ」
 どうも、まだ露出度の高い格好が恥ずかしいようだ。なるほど、竜に騎乗して飛ぶなら、防具は確かに軽量性が求められるだろう。うむ、グッジョブ。
『ここでは関係ないのですが、沙都子の遊撃士(レンジャー)は、地形効果[森]の場合、罠の効力が五割り増しと飛躍的に向上するのです』
「あら、それではまたの機会がございましたら、是非裏山で行ってみたいものですわ」
 そん時は沙都子がラスボスだな……。てか、勝てる気がしない……。50%増しはヤバイだろ……。
「羽入、私と詩音の職業って何? 多分同じだと思うんだけど?」
魅音が言った。二人とも皮製の鎧に鉄製の篭手。徒手空拳の肉弾系だろうか。そんな感じがする。
『二人は修練僧(モンク)といって、素手で戦うエキスパートなのです。あと、初歩的な補助系、回復系の魔法が使えるのです』
 それはいい。どう見ても攻撃主体のパーティーだったからな(俺達らしいが)。初歩的とはいえ、回復手が二人居るのは心強い。
『あと、魅音は指揮官(コマンダー)の属性が与えられていますです。魅音が生きているうちは、皆は基本能力が一割増しなのですよ』
「10%増しか……。へぇ、そんなシステムまであるのか。だそうだ魅音、あんまり前に出るなよ。お前が落ちると、地味に戦力がダウンする」
「えー。おじさんも前衛で戦いたい~」
「というか、前衛職多すぎですわ、このパーティー」
「私は後ろのほうで、適当にサボらせて頂きますね」
「あはは、私も出来れば、あまりこの格好で飛び跳ねたくないかな、かな?」
 かくして、それぞれの想いを胸に秘め、勇者一行は魔女討伐に向ったのであった。



 二階へ続く階段を登りきると、一階と同じ造りの空洞に出た。
ただ一点、違うことを挙げるとするのならば……
「やぁ、良く来たね」
「んっふっふっふっ、待ってましたよぉ~」
「一日千秋、その時が長ければ長いほど、より強いカタルスシを味わえるのです! そう、その時間の長さは、愛を測るバロメーターッ!」
 フロアの中央にて待ち構える、ソウルブラザーが三人。そこにはトミー、クラウド、イリーの三人が待ち構えていた。
「これ……梨花ちゃんが召喚した眷属……なのかな、かな?」
 レナが冷や汗を流しながら、誰に聞かせるともなく呟く。気持ちは良くわかるぞ、レナ。てっきり凶悪なモンスターが召喚されるものとばかり思っていたのだが……。
「まさかここで、K1さんの裏切りイベントが発生とかしませんですわよね?」
「あー、それはそれで王道だね。仲間と信じていた主要キャラの、突然の裏切り。それには、涙無くして語れない悲しい真実が!」
「ないない、そんなのはない」
 熱く語り始めた魅音を遮る。
 俺は改めて三人を見た。
 クラウドは重そうな鎧をガッシリ着込んでいる。これは相当な防御力がありそうだ。左手には円形状の大きめな盾、右手には片手で持てるタイプの歩兵槍(スピア)が握られている。スピードは壊滅的だろうが、防御力はかなりのものだろう。
 イリーは普段の白衣とは若干違う、どちらかというと科学者に近い服を着ていた。あ、多分イリーの職業、俺分かった……。
 最後はトミーだが……あれ?
「ねぇ詩ぃちゃん、富竹さん、一人だけ普段着じゃないかな、かな?」
「ですねぇ。こういう場だと、むしろ私服の方が違和感ありますねぇ……」
トミーは普段のランニングシャツにジーンズのカメラマンスタイルだ。
『クラウドは重装歩兵(ファランクス)。スピードは劣るユニットですが、防御力が非常に高いのです』
 想像にたがえぬ性能を、GМの羽入が告げる。
『次にイリーですが……狂科学者(マッドサイエンティスト)です……』
 はい、これもビンゴ。
「メイドマスターとか言われたら、どうしようかと思いましたですわ……」
 沙都子が当然の不安を口にする。
『能力は完全な後方支援型なのです。味方の支援よりは、敵に状態異常を施す能力に優れているのです』
監督のことだ、もっと別の能力を警戒したほうがいいかもしれない。
 そして、問題は次の……
『えー、最後のトミーなのですが……あぅあぅ』
 羽入の説明が詰る。
 皆が一番詳細を知りたがっている、一人普段着のままで登場した富竹さんだ。
『あぅあぅあぅ、前例がないので、ちょっとよく分からないですよ』
「ちょっ、おじさん一番富竹さんの情報が知りたいんだけど!?」
「不気味ですね。一人未知数な存在がいると、相手がどんな連携をとってくるのかも想像つかないですよ? 下手をすると致命的な損害を受けるかもです」
「本当に分からないのでございますの? メンツがメンツなだけに、そんな不確定な条件下で戦いたくないですわ」
『あぅ……、あぅあぅあぅあぅあぅあぅ』
 魅音に詩音、そして沙都子が羽入を責め立てる。気の毒だが、俺も沙都子の意見には賛成だ。イレギュラーな存在は、それだけで戦況をひっくり返すことがある。
『あぅあぅ、羽入癌ばってます。お察しくださいなのです……ブツン』
 いや、ちょっと自分でブツンて……。
 そして、羽入回線は途絶えた……。
「え? き、切りやがった!?」
「あはは、ふてくされちゃったかな、かな?」
 こうなってくると出たとこ勝負になる。俺は改めてソウルブラザーズを見渡した。
 自分で言うのもなんだが、相変わらず禍々しいオーラを放ってくれるぜ。味方の時は頼もしいが、敵に回すとこうも不気味な存在になるとは……。
「んっふっふっふっ、どうやら相当警戒されているようですねぇ。ならどうでしょう、勝ち抜き戦にしてみては?」
「勝ち抜き戦?」
 クラウドの提案に、魅音が聞き返す。
 こっちは五人。向こうは三人。条件としては悪くない。そして、能力が未知数のトミーを単体で相手することができる。乱戦で敵のunknownが混じることを考えれば、これは非常にいい条件といえた。
「魅音、受けよう。悪い条件じゃない」
「そう、悪い条件じゃない。それを向こうさんから提案されたことを考えると、おじさん、一抹の不安を拭えないねぇ」
 流石は我らが部活の誇る名将、魅音。常にその警戒網は全開だ。
「しかし、だからって断れば、臆病者の謗りを受けるは必定。ならばその申し出、部長、園崎魅音の名において受けようっ!!」
「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
 後ろに控えていた俺達も、雄叫びで魅音の決定に応えた。

「んっふっふっふっ、いいですなぁ若いのは。では、先鋒は私からいかせてもらいましょう」
 そう言って、重装歩兵(ファランクス)クラウドが前へ出た。
「ならこっちは、私がいかせてもらいますね」
 そう言ったのは、意外にも修練僧(モンク)詩音だった。
「あと三ヶ月で引退される前に、ダム戦争以来の引導を渡すいいチャンスかもです☆」
 ああ、そういえば古くからいろいろと大石さんのお世話になっていたとか、聞いたことがある。
 両者は一定の間合いを取って、中央で対峙した。
 片や防御力の重装歩兵。片やスピードの修練僧。おそらく、クラウドは自分から動いたりはしない。徹底して待つのだろう。その防御力は詩音からしてみれば、要塞に等しいはずだ。
 対して詩音が勝っているところといえば、スピードと、確か僅かばかりの魔法が使えること。これは、真正面から立ち向かうのは分が悪い……て!?
「はぁぁぁぁッ!」
 詩音が動いた。真正面からクラウドに向って突進する。馬鹿な、自殺行為だ!
 クラウドは円形盾(ラージシールド)を構えて、詩音の突進を防ごうとする。しかし詩音はそれを鉄の手甲で弾き飛ばした。
 そこまではいい。しかしその後どうする!?  クラウドは重装歩兵。その体にはまだ重量級の鎧を纏っているのに。
 それを知ってか、クラウドがいやらしく笑った。詩音の攻撃を耐えた後、致命的な反撃を叩き込む気だ。
 
 バチィィィ!
 
 電流が流れる激しい音と、カメラのフラッシュが焚かれたような激しい光。
 その二つを感じた次の瞬間、クラウドの体はスローモーションのように崩れていき、大きな鎧の音と共に床へと崩れ落ちた。
「決まった……雷神発勁掌」
「嘘だっ!? なんだよ、その右手に握られたスタンガンは!?」
「えぇ~、あはは。なんか使い慣れた感触が手元にあったので、つい☆」
 恐ろしい奴。どんなに重装備していても、電流を流されては堪らない。
「さぁ、一人目勝ち抜きです。お次はどちら様です?」
「フッフッフッ、次は既に始まっていますよ詩音さん。いえ、皆さん!」
 その声をしたほうへ、全員が振り向く。そこには禍々しいオーラを最大限にまで高めた狂科学者(マッドサイエンティスト)イリーの姿があった。
「ありがとう、クラウド。あなたの犠牲、あなたが稼いだこの時間、無駄にはしません!」
「な、何っ!?」
「まさか、勝ち抜き戦の提案は、時間稼ぎが目的だったというのッ!?」
 俺と魅音がほぼ同時に声を出す。
 周囲を包む邪悪な気配。欲望と、煩悩の乱流が、あたりに満ちていた。
 最早イリーの返答を待つまでもなく、俺達は敵の術中に落ちたことを自覚する。
「これは、まずい! くるぞ、監督の奥義ッ!」
「遅いッ! もはや我が世界は既に成ったッ!!」
 監督……いや、イリーが天空にその両手を掲げる!
「感じませんか、この空間を支配している愛の理を! それが理解できぬとは、なんと嘆かわしい。これはお仕置きが必要です。さぁ、跪きなさい! そして瞳を潤ませ、上目づかいにし、両手を胸の前で組んでこう言うのです、『ご主人様、この不出来なメイドにどうか罰をお与えください』と……。言えませんか? おお、嘆かわしい。あなた達には奉仕の心が足りない。尽くす心が足りない! ご主人様を想う愛が足りないッ! 何ですかそのふしだらな格好は!? メイド服はどうしました!? 白い百合のようなカチューシャ。その心を表すかのような純白のエプロン。柔らかい足を包み込む白いニーソックス。白と紺のデュオ。それは奉仕の心の具現であります。裸エプロンにはない、精神の具現。確かに裸エプロンに目をつけたメ*ィ*は神と言えるでしょう。素肌を覆う、たった一枚の白き薄布……。歩く道こそ違えど、その魂は私と同じ境地にあるといえる。話しは逸れますが、D*Ⅱ*Cで*姉の裸エプロンイベントあったのに、何故そのテレカが用意できなかったメ*ィ*ぉぉぉぉッッ!! コホン、失礼。しかし、故に言いたい! 何故メ・イ・ドではないのかとッッ!?  ソフトなどただの飾りです。エロい人にはそれがわからんのですッッ! 最近は疾風の如きスピードで走ったり君が主で私が執事だったりと執事ブームがきていたりもしますが、その根底は同じッ! 奉仕の心ッッッ!! 想う心、それすなわち愛ッッ! メイドこそが愛と萌をもって、世界から争いを無くしてくれるのです。詠いなさい、メイドさんロックンロールッ! 叫びなさい、私と共にッッ!! いま、雛見沢より、愛を込めてぇぇぇ!!



















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へう゛ッッッ!?」

ドォォォンッッッ!

 三回転半をして着地したイリーを、激しい爆音が出迎える。
 全てが吹っ飛んだ。彼の理想も、精神も、世界も、その全てが……。
「キメポーズの着地点なんて、想定の範囲内ですわ。何度その特殊能力の犠牲になったと思ってますの?」
 沙都子の罠が炸裂したのだ。
 固有結界、メイド・イン・ヘヴン。不発。

「さて、いよいよ、僕の出番かな?」
 残す最後のソウルブラザー、トミー。不適な笑みを浮かべたまま、俺達と対峙した。
「いくよ、覚悟はいいかい?」
 トミーがそういうと、周辺の空気に緊張が走った。俺たちは無意識に身構える。
 すると何を思ったのか、トミーがその馬で足踏みを始めた。
「……?」
 怪訝な顔をする俺達を他所に、その足踏みは徐々にそのスピードを増していく。その速度が速くなればなるほど、俺たちは正体不明な不安を募らせていった。
 そして、足踏みの速度が最高潮に達したかと思われた次の瞬間、

「うぉおおおぉおおどっけええぇええッ!」

 トミーが突如、俺達に向って猛スピードで突っ込んできた。
「うわぁっ!」
「な、なんでございますのっ!?」
 誰一人受け止めようとは考えず、俺達は左右に散ってトミーの突撃をかわした。
 その間を抜けたトミーはUターンをすると、再びこちらに向って突撃を開始する。俺達は再度左右に散って、それを必死に回避した。
「沙都子、進行方向に罠を張って、動き止めてッ!」
「二度目の突撃で行いましたわ。でも止まりませんのッッ!」
 見ればトミーが通ったその跡に、踏み潰された罠と思わしき残骸があった。
 トミーは再びUターンをし、こちらに向って足踏みをしている。一度仕切り直す気か、どうやら今度は直ぐに突進してくる気配はない。
「これは……困ったことになったかもですねぇ~……」
 詩音がそう呟いた直後、途切れていた羽入回線が聞えてきた。
『あぅあぅ、判ったのです、トミーが何なのか判明したのですよ』
 地獄に仏とはまさにこのこと。この状況を打破できる情報が、是が非でもほしい。
「それで、トミーの職業はいったいなんなんだ、羽入ッ!?」
 皆が最も聞きたいことを、俺が代表して訊いた。


















 
 『機関車(トレイン)』



「「「………………………………は?」」」



『ちなみに突撃(チャージ)を三回行うと、攻撃力二倍という特殊効果を持っているのです』
「「「なんだそりゃぁぁぁぁぁっ!!」」」」
 余りにもぶっ飛んだ内容に、流石の部活メンバーも思考が一瞬停止した。
「既に二回、突撃(チャージ)を発動させているよ、圭一君!」
 こんな時のレナは頼りになる。誰よりも早く思考を再起動させ、状況を正確に見直していた。
 そうだ、固まっている場合じゃない。次の突撃はなんとしても阻止しないと。
 「沙都子、ボウガンだっ!! 射程外から打ち落とせ!!」
 「がってん承知ですわっ!!」
 言うが早いか、沙都子は腰にかけていたボウガンを構えると、何故か慣れた手つきで矢を装填する。
 射程がからの長距離攻撃っ!! これならっ!!!


       !!!」


 「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 なにか……何か得体の知れない光が一瞬瞬いたかと思うと……沙都子は吹き飛ばされていた……。

 なにが……いまなにが……?

  「そんな……長距離(ロングレンジ)武装まであるというの……!?」
 魅音……違う……突っ込むところはそこじゃない……そこぢゃないぞ……。

「ボクのカメラは、しか追求しないのさっっ!!」

 誰でもいい……ヤツを……ヤツを止めてくれぇぇぇぇぇ!!
 そうこうしているうちに、トミーの足踏み速度は再び最高潮に達していた。
 来るっ!
「是が非でも止めて! 後がないよッ!」
 魅音が叫ぶ。
「かかってきやがれ畜生めッ、こっちは5人だ!」
 トミーの前方に待ち構える5人。だが、トミーは自分がその5人程度で止められるとはまるで夢にも思わなかった。汽車の前方に人がいたら警笛を鳴らすのはなぜ? 汽車が傷つくからじゃない。


 手
  が
   跳
    ね
     飛
      ば
       さ
        れ
         る
          か
           ら
            だッ!


「うぉおおおぉおおどっけええぇええッ!!」
 その雄叫びはまさに機関車の警笛! 自分の邪魔だからどけと言ってるんじゃない。
 怪我をしたくなかったらどけと警告しているのだッ!
「こ、こっちはこれだけ人数がいるんだ! 体重だけ見たってヤツの5倍だぞ! それだけに圧し掛かられてもなおヤツを止められないってのか!? ありえない! ありえねぇ、絶対ここで止めろッ! かかれぇええぇえええぇえええ!」
 不敵に、…いや、笑っていない。機関車は笑わないッ!
「ううおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」















ぷす



「「「……………………あ」」」



 誰もが、目の前の光景を疑った。だが、そこに置かれた光景は、紛れもない事実だった。
 レナの槍に、トミーが刺さっている……。その突進力が、まるまる自分に跳ね返ったのだ。
 レナ自身も、何が起こったのか理解しきれていない様子だった。
『そういえば騎兵などが得意とする突撃(チャージ)にとって、槍は天敵なのですよ』
 そういうことは、もっと早く言え。
 機関車トミー……自滅。
 ちーん(合掌)。

「ジロウさんッ!」
 地面に倒れこんだトミーに向って、何処からか突然、一人の女性が駆け寄ってきた。
「あ……あれ!?」
「鷹野さんですわ!」
 詩音と沙都子が驚きの声を上げる。まるでどっかのお姫様のような格好をした鷹野さんが、トミーの側へと駆け寄っていく。
『あぅあぅ、姫(プリンセス)三四なのですよ』
 そう来たか……梨花ちゃん。
「ジロウさん、ジロウさん、しっかりして……ッ!」
 トミーの頭を膝の上に抱え込み、その頬を慈しむように何度も撫でる。
「……ああ、鷹野さん。ゴメンよ……君を……迎えに……いけそうに……ない」
「いや……いやよ。言ってくれたじゃない。一緒に……一緒に田無美代子を取り戻そうって。その日まで、私の側にいてくれるって……。お願いよジロウさん……私を一人にしないで……!」
「えーあー……………………先に進もうか?」
 その場の空気に耐えられなくなったのか、魅音がそう口を開いた。
 特殊スキル[空気嫁]発動。しかし、今日だけは絶妙であります、隊長殿。
 しかし梨花ちゃん、楽しんでるなぁ……。



 3階は省略させていただきたい。何があったのかというと……いろいろ危険なのだ。
 あれは……多分知恵先生だったと思う……。
 職業は代*者(エクスキューター)とかなんとか……。第*聖典がどーとかこーとか……。
 セブン?
 *ードスク*ェ*がコー*ス*ウ*アが! 逃げてぇぇぇぇぇぇッ!
 ここで語るにはいろんな意味で危険なので、割合させていただきたい。埋葬されたくないんです……はい……。



 そして俺達は四階へと歩を進めた。
 そこに居たのは……
「んがっはっはっ、待ちくたびれたんね」
 ならず者(ローグ)北条鉄平だった。
「お、叔父様ッ!? ちょっと梨花、これはどういうことでございますのッ!?」
 沙都子が上空に居るであろう、梨花ちゃんに向って声を上げる。
 確かにこんなお祭の最中に、見たくもないような顔だろう……。
「いいえ、沙都子、それは違いますよ?」
 しかしそんな不満を口にする沙都子の両肩を、詩音がガシッと掴む。
「これはですね、梨花ちゃまからのボーナスステージです♪」
 笑ってない。笑っているように見えて、目が笑ってない。
「くっくっくっ、梨花ちゃまも人が悪い……」
 にやぁ~と、詩音がこれでもかというくらいの魔性の笑みを浮かべ、鉄平の方に顔……いや、貌を向ける。
「詩ぃちゃん、私も混ぜてもらっていいかな、かな?」
 レナの貌も……笑っているんだけど、笑ってない。無事解決したとはいえ、竜宮一家もあの男のおかげでエライ迷惑を被ったからなぁ……。
「待て、お前ら……?」
 異様に上がったテンションの二人を止めようとして、俺は腰の違和感に気がついた。腰の重量が変化した気がしたのだ。
 不可解に思って、帯剣しているはずの剣に手を伸ばす。
「どういう……ことだ?」
 そこにあったのは剣ではなく、一振りの金属バットだった。
 この……金属バット……あれ? 金属バット……?
「圭ちゃん、どうしたの?」


………ぁぁああああああああああああっ!!!

推定所要時間は25分。刺し違えるつもりなら、秒に直してわずか1500秒以内に遂行できるのだ。あの男がいかに生かされているかがわかる。俺が決意してわずか1500秒でこの世から放逐されてしまう程度の存在なのだ。俺が決意したら余命はわずか1500秒。いや、…駆け足でヤツの家を目……

「圭一さんッ!!」
 沙都子の、俺の名を叫ぶ声が耳に響く。
 はっ、と、俺はその声で、“こちらの世界”に帰ってこられた。
「どうしましたの、随分と怖いお顔をなさってましてよ?」
 沙都子と魅音が、心配そうな表情で俺の顔を覗き込んでいた。
 俺は二人を安心させようと、笑いながら「なんでもない」と言った。
「なぁに、ちょっと悪い夢を見ていただけさ」
 そう言って、沙都子の頭の上に手を乗せて優しく撫でた。突然のことに面食らったようで、沙都子は口をパクパクさせたまま赤くなっている。面白い奴め。
 そう、夢さ。悪い夢。
「さてと、あの二人だけだと不安だから、俺も行ってくるわ」
 前線を見ると、レナと詩音は既に鉄平の眼前にまで迫っていた。
「魅音と沙都子は戦況をしばらく見守っていてくれ。で、その戦況によっては援護よろしく」
「了解。武運を祈る!」
「お気をつけあそばせ」
 何故か金属バットに変わってしまった武器を担ぐと、俺は前線の二人の下へ駆け出した。
 あんな持ったことのない剣より、この金属バットの方が、俺の手にはしっかり馴染んだ。
 いくぜ悟史。お前もあいつには、一発くらいはくれてやりたいだろ?
『あぅあぅあぅ、L5発症経験者トリオなのです。ある意味オフェンスとしては最強の布陣なのですよ☆』

 かくして、鉄平戦の幕は上がった。
「どうやら、好きにボコボコにさせてもらえる訳ではなさそうですねッ!」
 詩音が後方に飛びながら悪態つく。
「詩ぃちゃん、また来るよ、跳んでッ!」
 レナも叫びながら、大きく後方へ跳んだ。さすが竜騎士、大した跳躍力だ。
「がははははは、ほうら、鉄・平・弾ッッッ!!」
 鉄平がそう叫びながら打ち出した拳に、不可視な気弾が乗せられる。
 俺達が散開してなければ直撃したであろうその気弾は、轟音を立てて壁に直撃した。
 ちっ……しょうがねぇな。
 俺はバットを構えて姿勢を落し、鉄平に向って駆け出した。
「圭一君ッ!?」
 虎穴にはいらずんばなんとやらだ。ゲームオーバーになったら後は頼むぜ、レナ!
 鉄平の拳が大きくタメを作る。そして重心を落すと、超スピードで拳を打ち出す。
 それでも、俺は突進をやめない。
ゴウッ!!
 と、不可視の気弾が自分の横を通り過ぎるのを確かに感じた。
 よっしゃ回避成功ッ!
 そして、もう眼前には鉄平の醜悪な顔がある。懐を取ったのだ。
「もらったぁぁぁぁぁッッ!」
 当然俺はフルスイングでバットを繰り出す。
 決まっ……たぁぁぁぁ……?
「ああん、なんね、今なにかしたん?」
 両手に走る激しい痺れ。こいつ、なんて体してやがる。
「梨花ちゃん、強く設定しすぎだよ、だよ!」
 同感だレナ。
 俺は手の痺れに耐えながら、後ろに跳んで鉄平から間合いをとった。
 が、鉄平がそんな俺を追ってくる。奴の拳が眼前に迫る。やばいッ!!
「うぉ!!」
 しかし、覚悟を決めた俺の耳に届いてきたのは、鉄平の間抜けな声だった。遥か頭上の、不可解な位置から聞こえてくる。
 そして、後を追いかけるように、ドシンと鈍い音が地面に響いた。
「空気投げが一つ……隅落し」
 魅音だった。合気道の残身のような型をとり、俺に背を向け、鉄平の前に立塞がる。
「いまだよ、沙都子ッ!」
 そして、秘奥義を炸裂させた余韻に浸る間もなく叫んだ。
「あいあいさー、ですわ」
パチン!!
 沙都子が指を鳴らした途端、塔を震撼させるほどの大爆発ッ!!
 監督を吹き飛ばした物の、優に五倍はありそうだ。これは私怨が入っているな……。
強くなった、沙都子。
「ああん、なんね、今なにかしたん?」
 しかし、煙幕から姿を現したのは、無傷の鉄平だった。
「ちょ、うそぉ!?」
「通常の三倍増しもいいとこですわ!」
 驚きの声を上げる魅音と沙都子。当然だ、アレで無傷なんてどうしろってんだ。
「おいたが過ぎるのぉ、沙都子」
 そして、鉄平がその体格からは想像もつかないスピードで跳躍した。
「沙都子ッ!」
 俺はその方向に向って叫んだ。鉄平は沙都子に向って突進している。
 そしてその拳を振り下ろす。
 しかし、それは豪快に空を切った。
「ふぅ、間一髪です」
 詩音だ。沙都子を抱え込むようにして、鉄平の前に立塞がっている。
 しかし、鉄平の次の行動は早かった。
 右手に収束していく、見えない力。
 まずい、沙都子を抱えている今の詩音じゃ避けきれない!
「鉄・平・弾ッッ!!」
 放たれる不可視の気弾。
 詩音は直撃する寸前、沙都子を抱えたまま体を捻った。そしてその背に、気弾の直撃をモロに受ける。
 豪快な音を立てて、二人は吹き飛んだ。折り重なったまま、地面を転がっていく。
「詩音ッ!?」
「い……痛ったぁ……」
 魅音の呼びかけに応えるように、か細い詩音の声が聞こえてくる。
 よかった、まだ何とか無事のようだ。
 しかし追い討ちをかけるように、鉄平は拳に次弾を装填する。
「離して、離してくださいまし詩音さんッ!」
 その気配を感じ、沙都子が叫ぶ。しかし詩音は沙都子を抱きかかえ腕を、解こうとはしなかった。
 俺には“解る”。詩音は離したりしない、絶対にだ!



──────沙都子のこと、

   …………頼むからね。




「撃たせるかッ!」
 俺は金属バットを握り締めて鉄平に襲い掛かる。
 俺だけじゃない。レナと魅音も、沸き目も振らず、鉄平へと突進する。
 だが、やはりその強固な体にダメージを与えられない。動きを止めるに至らない。魅音とレナの攻撃も、鉄平は平然と受け流して見せた。
「ほうら、いくでぇ、鉄・平・弾ッッ!」
 そして俺達を嘲笑うかのように、鉄平はその拳を打ち出した。
「離してッ! ねーねーぇぇぇッ!!」
 沙都子の声が響く。
 くそ、くそ、くそッ! 力を貸しやがれ、悟史ッ! このまま沙都子を打たせていいのかよッ! お前は沙都子のにーにーだろッ!?
 その時、金属バットが光った。

『火と水と地と風の理を統べる者よ。偉大なる魔導の担い手よ。この声、この想い、汝が胸に届くなら出でよッ! 悟りし者、導師(アークメイジ)ッ!』

──────むぅ。

 辺り一面を覆う閃光。視界が、光で遮られる。言うなれば、そう太陽の光。優しい陽光。
 そしてその光が、徐々に薄れていく。
完全に光が晴れた時、魔法使い風の衣装を身にまとった男が一人、立っていた。
 分かる。こいつが誰なのか、俺は“知っている”。
『あぅあぅあぅあぅあぅ☆ 導師(アークメイジ)悟史、ここに降臨なのですよ☆』
 鉄平はというと、既にノビていた。あの光は邪悪なものには相当きつかったらしい。
「さと……し……君?」
 詩音が身を起こす。
「にー……にー?」
 続いて沙都子。
 二人とも、いま目の前の光景を上手く認識できていないようだ。
 だが、やがて二人はその顔をしわくちゃにすると、その男の元へ向って駆け出した。

「いやはや、どうなることかと思ったよ」
 満足気に詩音達の様子を眺めながら、魅音が近づいてきた。
 詩音も沙都子も、悟史に頭を撫でられて、幸せそうな顔をしている。
「これがやりたくて、梨花ちゃんあんなに強く設定したんだね」
 そう言いながら、レナも傍へ寄ってくる。
 まったくだ。あの強さは三階の知恵先……ゲホゲホ。
 絶体絶命のピンチに駆けつけたにーにー。実に美味しい役だ。
「あっ、悟史君ッ!?」
「にーにーッ!?」
 詩音と沙都子の声がして、俺達はそっちを向いた。
 見れば悟史の体が、光の粒子に飲み込まれて消えようとしている。
「……まっ……待って」
 詩音が慌てて止めようとする。しかし、それを悟史は優しい笑顔で制した。

──────きっと、また直ぐに……

             逢えるから。


 そして、消えた。
 完全に消え去る一瞬、悟史が俺の方を見て微かに笑った。気のせいじゃなく、確かに俺を見て微笑んだ。
 了解だ。にーにー役、もう暫く任されてやるから、お前も早く帰ってこいよ。
「ま……まったく、梨花のお節介にも呆れますわ」
 頬の水分を拭き取りながら、沙都子が素直じゃない悪態をつく。
「おのれ梨花ちゃま。後でキスの雨を降らせてあげます」
 詩音も同様に、俺達に背を向けたまま、多分瞳の水分の蒸発に努めているのだろう。
 確かこのゲーム、“神々の夢”っていったか?
 沙都子、詩音。こいつはきっと、正夢になるぜ。



 大きな風を感じた。
 遂に最上階へと辿り着いた俺達の視界に飛び込んできたのは、大きな青空だった。
 この階だけ天井がない。ここからは外の風景が一望できる。青空の他にも、地平線まで続く荒野を、その瞳に映すことが出来た。
「……来たのね」
 そしてそこには、梨花ちゃんがいた。
「はぅ~。り、りり梨花ちゃん、かぁぁぃぃよぉ~☆」
 黒いマントに黒いとんがり帽子。右手には杖が握られている。そんな魔女スタイルが、変に可愛らしく似合っている。
「さぁ、追い詰めたよ、梨花ちゃん。大人しく降参するかい?」
 魅音が降伏勧告を行う。何せ俺たちはここまで、誰一人として欠けていない、フルメンバーなのだ。
「悪いけど……私はもう飽きているのよ……諦めることに」
 梨花ちゃんが妖しい微笑を浮かべる。おお、なんか魔女ッポイ。
「だから私は……私の夢を……諦めない」
 梨花ちゃんが杖を翳す。やばい、また厄介な眷属でも召喚する気か。
 杖が頭上高くに振り上げられ、梨花ちゃんが何かの名を叫ぼうとした、その時、
「悪いけど梨花ちゃん、ここで眷属を呼べるのは、あなただけじゃないッ!」
 梨花ちゃんの魔女っ娘スタイルで、すっかり充電が完了したレナが叫んだ。
 その手に握られた槍を頭上に掲げる。そうだ、ここは[屋外]。なら呼べる筈だ。
「盟約に従いて、来たれ天空の支配者ッ!」
 レナが高らかに天へ向って叫ぶ。
 直後、先ほどの青空などなかったかのように、暗雲が天を覆った。その雲の間を、雷光が駆け抜ける。
 そして、暗雲に突如として切れ目が入る。高速度移動した“何か”が、灰色の雲を切り裂いたのだ。その“何か”は速度を落さぬまま、俺たちのところへ向って飛来する。
 来る……皆が無言でその気配を感じていた。
 竜騎士の眷属、[飛竜]。この状況下において、戦局を決定付ける大きな援軍。
 そして“それ”が眼前に迫ったその時、“それ”はその両腕を広げ、大きな体を止めて見せたのだ。
 来たッ! 悪いな梨花ちゃん、この勝負俺達の勝ち…………………だ?
「………………………魅音……俺の幻覚だったら、そう言ってくれ」
「あ……あははは、ひょっとして梨花ちゃんに幻覚の魔法でもかけられたかなぁ」
「げ、幻覚でも何でもございませんわ……そ、想定の範囲内でしてよ」
「ちょっと今だに……あのコのことが解らない、かも……です……」
 巨大ケンタくん人形、招来。
 嘘だぁぁぁぁぁぁぁ!

「さぁ梨花ちゃん、これで降参する気になったかな、かな? 今なら優しくお持ち帰りしてあげるよぉぉぉぉッ!」
 茫然自失となった俺達を取り残して、レナはノリノリで梨花ちゃんに詰め寄る。
「くすくすくす。言ったでしょう、諦めないって」
 梨花ちゃんはそう不適に笑うと、一層恰幅の良くなった巨大ケンタくん人形に向かって杖を翳した。
「遊んであげるわ、おいで樽男」
 その返答に、レナも不適な笑みで返した。
「そう。なら、手加減しないよ。行けぇぇぇケンタ君! 梨花ちゃんにダイレクトアタックッ!」
 レナがそう合図をすると、巨大ケンタ君人形が梨花ちゃんに向って飛ぶ。
 この重量、例えどんな手を講じようとも防げるはずがない。誰もがそう思った。勝負あり。俺達の勝ちだと。
 そして直撃。大きな爆音と爆煙が周囲を覆う。
 梨花ちゃんはまともな防御すら間に合わなかったはずだ。さすがレナ。手加減なしと決めたからには、容赦しねぇぜ。
 徐々に煙幕が晴れていく。その煙幕全てが晴れた時、このゲームはエンディングを迎えるのだと、俺達の誰もが確信していた……。
























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『その声は、後悔と苦渋を知る者にしか出せない重みがある』

「ちょッ! 羽入、何そのナレーション!?」
魅音が当然驚きの声を上げる。




数え切れない世界で後悔した。

   いつも、気付くときには手遅れだった。





「し、しかも何でございますの、このBGMッ!?」
突如流れ出したアップテンポな曲に、抗議をいれる沙都子。




私が、ずっとずっと、

   一番伝えたかった言葉を言うよ。





「ケ、ケンタ君人形が粉々に粉砕されてるよ、はぅぅぅ!」
折角の特大ケンタ君人形が壊されて、嘆くレナ。


























梨花ちゃん、





















        君を、





























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どぉぉぉぉぉんッッッ!!




『これは、……百年にも勝る約束の誓い。足して百年間。あの日この場所にいたなら少女を陰謀から救えたのにと後悔し続け、この日に帰ることができる奇跡をひたすらに信じて我が身を鍛え続けた。そして、男の強い意思が、そして奇跡を待つ少女の想いが、奇跡を起こす! 一度しか起こらぬ奇跡が男を、昭和59年元旦の雛見沢に間に合わせたッッ!』
 見える……小指を立ててマイクを握り、ノリノリになってナレーションを入れる羽入の姿が。見えないけど見える。
「GMは公平に仕事しろーッ!」
『あぅあう、シュークリーム6個で買収されたのです☆ それにキムチ鍋はいやなのです。お察しくださいなのですよ☆』
 羽入ぅぅぅぅぅぅ!
『拳聖(スターグラディエーター)赤坂降臨なのです。近衛(ロイヤルガード)属性で、梨花を中心とした周囲25マス以内だと、攻撃力防御力共に2倍なのですよ』
 なんだよ25マスって……。
 
 いいぜ、分かったよ……。やってやる、やってやるぜ!
「圭ちゃん!?」
「止めるな魅音、ここは俺一人に任せてくれ」
「でも圭一さん、いま丸腰でございましょう!?」
そう、あの金属バットは悟史召喚の触媒となったらしく、失われてしまっている。
「そいつは違うぜ沙都子……。男の武器ってのは……魂の中にあるもんだッ!!」
 俺のその一言を境に、空気が変わる。世界が変わる。
 思念の乱流が発生し、世界を新たな形に組み替えていく。
 さぁ、最後の宴をはじめようか。
「み……見える、圭ちゃんの背後に、ア*ギと坊*哲の英霊がッ! 雀士達の約束の地がッ!!」
 麻雀は男社会の潤滑油。豪雪地帯雛見沢での冬の娯楽。
 見せてやるぜ……雛見沢での越冬に備えて生み出した、俺の新たな力を!


「いくぜ徹甲弾…………弾の貯蔵は充分か?」


 天下に並ぶもの無し! 俺の新固有結界、國士無双ッ!
「圭一君、だめ、忘れたのッ!?」
 技が発動するまさに寸前、レナの声が響き渡った。
 忘れた? どういうことだ? 
 俺の固有結界の中で身動きは不可能。いや、もはや完全な発動を待つまでもなく、いまこの空間で動ける者など居ないはず。
 恐れることなど何もないと、そう思っていた。
「ッッ!?」
 突如、俺の腕が何者かに捕まれた。
 レナの方に気をやっていて、近づかれたことに気がつかなかった。いや、そもそも誰が動けるというのだ。
 重い……。俺の腕を掴む、その力強さ。俺の腕を押さえつける、その不動な重さ。
 俺は恐る恐る、腕を掴む者の顔を見た。


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 彼は、言った。動けないはずのこの空間で、拳聖赤坂はそう言ってみせた。
「な…………んだとぉ……?」
 動けるはずがない。こんな状況下でその言葉を言い返されるなんて、俺にはまったく想像がつかなかった、理解できなかった。

麻雀は心を養う。牌を打つ、ということは自らも打たれることを知る、ということだ。自らの一撃が相手に何を及ぼすか、どれだけの痛みや悲しみを与えるかを知った時。……人は打つ意味と、打たれるということを知るのだ。………だから、それに至らない君の一撃には重みが宿らない。

 そうだ……なんたる失態。俺はすっかり失念していた。
 この人は、あの大石さんすら寄せ付けない雀鬼だったじゃないかッ! レナはそれを忠告していたのにッ!!


牌を打つ意味のわからない君に、

     本当の重さと言うものを教えてやるッ!



 戦術の誤り。俺は相手がもっと得意とする戦場へ、間抜けにも相手を招き入れてしまったのだ。
 もはや雌雄は決したと言ってもいい。だが、素直にそれを認めるわけにはいかない。認められるものかッ!!
「俺が、雛見沢の前原圭一だぁぁぁぁッッ!!」




そりゃ良かったな。



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 俺達の冒険は……ここで終わった……。




 最後の寝坊助、圭一がようやくその目を覚ました。
「圭一、気分はどうですか?」
 まだ焦点の定まらぬ視線で、圭一が周囲を見渡す。
「お疲れ様なのです。ちなみに、ゲームはボクの一人勝ちだったのですよ、にぱ~☆」
 そこまで言うと、ようやく圭一は状況を察したようだった。頭を抱えて悔しがる。
 向こうでは魅音と詩音が、拳聖赤坂の攻略について熱い論争を繰り広げていた。圭一もそれに気がつくと、あわててその輪の中へと加わっていった。
 くすくす、私の赤坂が、そう簡単に攻略できてたまるもんですか。
 レナと沙都子はそんな様子を眺めながら、おせち料理の煮豆をつついていた。ゲームに熱中して小腹でも空いたのか。
「あぅ、とても楽しかったのですよ☆」
「そうね、くすくす」
 私はそう言うと、騒動の発端、“カミガミノユメ”に目を落した。
 羽入によれば、今のこれにはもう“力”は残っていないそうだ。あんなとんでもない世界が発動することは、“しばらく”はないらしい。
「これ、このまま園崎家に置いていこうと思うの」
 そんな私の意見に、羽入は当然異論を唱える。
「あぅあぅ、僕は祭具殿でしっかり封印したほうがいいと思うのですよ」
 当然ね。普通に考えればそうだ。
 でも、私はそんな気にはなれなかった。
 私は皆に視線を向ける。
 
 園崎姉妹は相変わらず過熱気味で議論に花を咲かせ、圭一はそんな二人に割って入る。
 レナはそんな様子を楽しそうに眺めながら煮豆をつつき、沙都子はどうも誤って泡麦茶を口にしてしまったらしく、目を回していた。
 あったのか、泡麦茶……。

「これ……わざと忘れていったんだと思うの」
「……え?」
 何のことかと、羽入が聞き返した。
 大昔の御三家が、どんな関係だったのか、村にとってどんな存在だったかは、知らない。だけど、今よりも過酷な時代。そんな時代でより強いリーダーシップを求められていたことは、想像に難くない。
 
 とても……孤独だったのではないか。
 
 あのお魎も、雛見沢の母として、とても孤独な戦いをしてきたという。
 そもそも、これを創った神とやらの夢とは、何だったのだろう……。
「神々の夢……か」
 神々……複数形。
 忘れ物があれば、訪れる口実が出来る。
 そんな口実がないと、訪ねてくれないのは、悲しい。
「私には、必要ないもの」
 願わくは次にこれを発動させる誰かが、いまの私と同じような幸せな光景に、出会えることを……。

                                    ~Fin~

コメント

初めてコメントさせていただきます。

楽しく読ませていただきました。
面白いと思ったのですが、小説大賞という門を通るのは、至極困難なのですね。

 赤坂さんの登場は、やはり燃えました。
 こういう展開は、個人的にはすごく好きなもので。


 それでは、失礼しました。

甲様、感想ありがとうございますm( __ __ )m
投稿自体始めての経験で、いろいろと勉強になりました。

一次突破も約5%と狭い世界だったようです(^ ^;
それでもお楽しみいただけたのなら幸いでしたヽ( ´ー`)ノ

>赤坂さんの登場は、やはり燃えました。

私もこのような展開は凄く好きです( `・ω・´)

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